naokiさん使われているタイムドメインスピーカーの「タイムドメイン理論」について、どういうものか気になったので、タイムドメイン社(以下、TD社)の資料「タイムドメインとスピーカー」を読んだら、いくつか気になることが出て来たので書く。なお、僕は実物の音を聴いたことがないので、タイムドメインスピーカーを貶したり褒めたりするつもりはない。あくまでも、資料を読んで思ったことを書く。

賛成する点

  • (音楽の感動を伝えるには)「何も加えず、欠落させずに、音源からの音を100%引き出し、ありのままに伝えることが必要」
  • 可能な限り、1個のスピーカーで再生するのが良い。

TD社が誤解している・誤解させている点

  • 従来のオーディオが周波数特性しか考慮していないと決め付けている。実際には、位相特性も重要であり、昔からそれは分かっていた(確かに、位相まで正確に再現できるオーディオシステムはまずないが、タイムドメインスピーカーの位相特性がどうなのかだって明らかではない)。
  • 資料中の図2(下に転載)は読者を誤解させる(それが、僕がこれを書きたくなったきっかけである)。

td-fig2

一番上の波形をフーリエ変換(周波数分析)すると中段の波形群になり、無音部分(図の左半分)にも波形があって、そのため、従来のオーディオシステムは無音も有音も区別できない/していないかのように書いているが、それは全く正しくない。

中段の波形群は、フーリエ変換して得られた周波数成分を、わざわざ全期間(無音+有音期間)に描いているだけである。フーリエ変換した結果を中段のようなグラフで描くのは、全く一般的でない。通常は、横軸は(時間でなく)周波数、縦軸はレベル(音量)で描く(→ )。更に、位相特性(周波数対進み遅れ)のグラフも描くことが多い。そして、もし、リアルタイムでフーリエ変換する装置で測定しているなら、中段のグラフだって、ちゃんと有音と無音の区別が出るのだ(グライコに表示されるスペクトラムをグラフにして見ているようなイメージ)。

確かに、フーリエ変換すると時間の概念がなくなる(分析した区間を平均しているようなもの)ので、図の全期間でフーリエ変換した場合には無音区間と有音区間の区別はできないが、それは当たり前のことで、通常は、フーリエ変換する期間を短くするとか、無音区間を分析しないようにする。それは測定方法の問題であって、オーディオシステムとして無音も有音も区別できず、だから音を正確に再生できないとは全然言えない。そんな基本的なことを分かってないのか、故意に誤解させようとしているのか分からないが、とても不可解だ。

しかも、実際のオーディオシステムでは、(グライコでもない限り)フーリエ変換してから戻すことなどしていないので、中央の波形群も一番下の波形も生成されないから、一番下の波形には何の意味もない。ただし、より正確に書くと、音をデジタルで処理している場合、インパルスの前後に小さい波が出る(→ )。だから、結果的に一番下の波形のようになる。でも、それはタイムドメインだって出る。音をデジタル処理すれば出るのだ。だから、もしそれをなくそうとするのなら、純粋なアナログシステムしか使えないことになり、「タイムドメインスピーカーは、レコードやテープとアナログアンプを使わないと本当の音が出ない」と言う必要があるだろう。

とにかく、図2で何が言いたいのか分からない。かなり経験の長い方が書いた資料だと思うのだが、この図だけでがっかりする(ある意味、小○方さん並みかも知れない)。

補足:

実際には、タイムドメインスピーカーを含めて、オーディオシステムは無音も有音も区別しない。オーディオシステムでは、無音から最大レベルまでリニア(直線)に通すことが重要であって、区別する必要がないからだ。区別する必要があるのは、音声認識とか高度な音声の圧縮や省電力化など、特殊な場合だけだ。オーディオで区別したら、システムが複雑化するだけで、却って音が悪くなるだろう。そもそも、パッシブスピーカーでそんな区別をすることはできない。

また、周波数特性の測定だって、有音と無音が混じっていても問題はない。無音が混じっていたら全体的なレベルが下がるだけだ。それよりも、測定期間の開始と終了の波形が0でないことが問題になる。例えば、図の上の波形では右端の値が0になっていないが、それをそのままフーリエ変換すると、変な周波数成分になって出て来る。タイムドメイン理論がこの問題を突いているなら納得するが、そんなことは一言も書いてない。もちろん、実際の測定では「窓関数」というものを使って測定期間の両端を滑らかにし、変な成分が出ないようにしている。

疑問のある点

  • タイムドメインスピーカーは、本当に位相まで正確に再現できる(=インパルス応答が正確)のだろうか?
  • なぜ、タイムドメインスピーカーがこだわっている時間的特性(例: インパルス応答)が何も公開されていないのか? 良くあるトンデモな物と違って、科学的な「理論」と言っているのだから、聴感で「音がいい」だけでなく、時間軸で有効であることを示す物理特性の値(例: インパルス応答の波形や相互相関係数)を出して、従来システムと比較しないと、有効性を証明できないと思う。
  • 筒状のタイムドメインスピーカー(Yoshii9)にだって、固有振動数はあるはずだし、共鳴もするはずだ。しかも、開放された筒の下部から「汚い」音が漏れるのでは?
  • Yoshii9は、スピーカーユニットからぶら下げられた長い棒でスピーカーを「固定」しているとあるが、その棒がブラブラ振動することはないのか? とても揺れやすそうに思えるが。そして、その棒もスピーカーの振動で共振するはずだ。
  • スピーカーユニットをゲルで固定しているが、固定が不十分なためにかえって音質が劣化するのでは?
  • 大型のスピーカー(GS-1)ではどういう訳か複数のスピーカーが使われているが、それまで述べられていたタイムドメイン理論と矛盾しているのでは? フルレンジ1個じゃないと駄目なのでは?
  • 本当に1個のスピーカーがいいのであれば、ステレオでは左右の干渉が生じて音質が劣化する(例: 左右の到達時間差でインパルスの波形がなまる)から、モノラルシステムにしないといけないのでは?

反対な点

  • 小口径フルレンジスピーカーでは、特に低音が出ないから、原音(あるいは、録音された音)との差異は大きい。つまり、「自然な音」ではない。あるいは、最初に書いた「音源からの音を100%引き出し」ているとは言えない。そのため、タイムドメイン理論の嫌っている歪みの一種が盛大に生じている。だから、自己矛盾している。
  • 従来の評価方法(周波数特性+位相特性)と時間波形による評価方法を別物として扱っているが、それはおかしい。理論的にはそれらは等価(片方をフーリエ変換すれば、もう片方になる)なので、片方の特性が良ければ、もう片方も良くなるはずなのだ。だから、従来のアプローチが誤っていると決め付けるのには反対だ。

という訳で、現段階では、僕はタイムドメインスピーカーに納得できない。でも、機会があれば、実際の音を聴いてみたいとは思う。

(もちろん、オーディオは聴く人が満足することが最も重要なので、使っている方をディスるつもりはありません。オーディオ好きな技術者としての意見を書いただけです。)

(7/1 5:16, 5:59, 6:29, 7:02 加筆・修正)

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10件のコメント

  1. naoki:

    ディスってないのは分かってます、分かってます。私は工学部を出ただけなので、ちゃんと勉強しておけば、れんとさんの話に付いていけるのだろうなあと思いました。むしろここまで書いて下さってありがとうございます。

    だから僕、本当は結構文系なんでしょうね。タイムドメインのスピーカー購入(mini)したのだって、何かこう、ITメディアの記事で本田宗一郎氏に通じるモノがあるというか、NHKのプロジェクトX的な話が好きだからなんでしょうね。

    どういう表現が適切か分からなくなって来ましたけど、禅に通じるような気がします。「見立て」とか、今ある物で満足する、みたいな。一番は、コンサートを聴きに行く、と。

    なんかとても有益な(僕の話は有益じゃないですが)やり取りが出来て嬉しいです。

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  2. naoki:

    しかし、れんとさんが仰っていることが全て分からないと言う訳ではないです。えっと、感覚的に、分かる部分がありますw

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  3. PiuLento:

    ●気持ちを分かって頂いて良かったです。書いた甲斐がありました。いや、学生時代に信号処理をやっていたせいもあり、つい細かくなりました。

    そう、一番は、「コンサートを聴きに行く」だと思います。そして、やっぱりnaokiさんと同じく、どうあがいても生には敵わないので「今ある物で満足」になっています(しようとしてますw)。

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  4. PiuLento:

    ●あ、いくらかでも分かって下されば、それは嬉しいです。

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  5. JS:

    たいへん勉強になりました。今度は視覚能力を100%引き出し、ありのままに見えるテレビについて、メーカー各社の資料を読んで解説して頂けると幸いです。4KとかHDRとかw

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  6. PiuLento:

    ●いやあ、JSさんのような大先輩には釈迦に説法でしょう。全く恥ずかしい限りです。

    そうですね。暇つぶしに4Kだの8KだのHDRだのについても調査・検討したいと思いますw ただ、例の原発汚染土の問題で気分が重いので、少し先になるかも知れません。。。

    あと、近頃は「4Kの父」は静かなようですが、どうしているんでしょうね。もう引退されたんでしょうかねw

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  7. JS:

    「4Kの父」は今何をしているのでしょうかねー。T急D園都市線沿線に住んでいるようですから、ちょっと様子を見に行ってみましょうかw あ、調査・検討結果は「4Kの父」と共著にされたらいいと思いますよw

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  8. PiuLento:

    ●なるほど。実際には例の父の動向はどうでもいいので、まあ、気が向いたら散歩がてら偵察なさって下さい。その時、どんな8Kテレビを装備していて、どんな映像を観ているかが気になりますw

    共著にすると、向こうは何もせず名前ばかり大きく出されそうなので、止めておきますw

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  9. JS:

    8Kテレビのご高説を聞かされると、非常に健康に悪い散歩になってしまいますw

    共著の場合は、れんとさんが挙げられたパターンの他に、父が珍説を一人で書き、勝手に連名にされて大恥をかくというのもありますw

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  10. PiuLento:

    ●確かに!w

    やっぱり、あの方は遠巻きに観察する程度がいいようですねww

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