アンプのボリュームは無効(≒ 最大)にして外部ボリュームでの音量調節を容易・実用的にするため、ゲインを下げるのは概ね思ったとおりにできた。しばらくはその確認や音の評価をして、それから「ちゃんと」しよう(ボリュームをまだ無効化していないのと、部品の実装が試行的になっている)と思って居た。のだが、せっかちな僕は、もう大丈夫だと思って、予定していた「ちゃんとする時期」が来る前に、アイデアや勢いに任せて更に改良したくなって、実行した。例によっていくつか手痛い失敗はあったが、なんとかリカバーできた模様だw
その作業は以下のようなものである。
- アンプの元々のボリュームのon/off(バイパス)をスイッチで切り替えられるようにした。
- 仮に外部ボリュームがない場合、 アンプだけでは音量が調整できず、全然使い物にならなくなるのを防ぐため、スイッチで元々のボリュームを有効・無効にできれば便利だと考えた。
- 元々はアンプの入力切り替えスイッチで切り替えをようと思って居たが、回路の変更が複雑で、追加スイッチなら少しシンプルになりそうだと思った。
- それで、丁度古いルータの電源スイッチが使えそうなので、取り外して使おうと思ったのだが、外し方が悪くて壊れてしまった(上下が別れてしまった・・・)ので、元々考えていた、入力切り替えスイッチを使うことにした。
- パターンカット(例: 写真中央辺りの白線の右の筋)やジャンパ線の追加など、結構な改造をした。
- 改造中に、右チャネルの初段のオペアンプに繋がるチップ抵抗が剥がれてしまった。使ったコードが硬くて力が掛かったためのようだ。心配はしていたが、表面実装なので かなり弱かった・・・
- どうしてもくっつけられなかったので、手持ちの同じ値(100Ω)の抵抗を付けた(写真中央下のほうの茶色い四角)。
- ちなみに、剥がれた抵抗は小さくて見ることすら困難で、代わりの抵抗を付けたら すっかり忘れてしまって、片付け中に行方不明になったwww
- 電源onしたまま切り替えた時に、アンプの保護回路が働くほど大きなショック音が出て危険なので、その音量を下げた。
- そもそも予想していたことで、切り替えは電源offで行う前提だが、いくら気を付けても誤ってスイッチを動かしてしまうことがあるので、ある程度の対処をしようと思った。
- 切り替える時、一瞬、入力と入力抵抗(10kΩ, ボリュームの全体の抵抗)が繋がっていない状態になるため、アンプの入力がハイインピーダンスになって感度が上がるためにショック音が出ると考え、初段のオペアンプの入力にプルダウン抵抗を追加した(写真左側の黒い筒に挟まれた水色の水色の物2個)。
- この抵抗は上記の入力抵抗に並列になるため、元々の入力インピーダンス(10kΩ)を余り変えないように、100kΩにした。これだと合成抵抗は9kΩとなるので、まあ許せるだろうと思った。
- 抵抗の値が大きいため、ショック音の防止に効かない可能性があったが、試したらそれなりに働いている。: 切り替えると「ボッ」という音は出るが、保護回路は働かないし、スピーカーも動かないので、それほど大きな害はなさそうだ(もちろん、切り替え時は電源を切るのがいいに決まっている)。
- これで、スイッチでボリュームがバイパスできるようになったので、最初からやりたかった、アンプのガリ付きボリュームの影響を完全に排除できるようになった。そして、バイパスしている時はボリュームが0でもちゃんと音が出る。この時は音量調整は外部ボリューム(写真右側)で行う。
- [未実施] アンプのゲインをスイッチで切り替えられるようにした(かった)。
- 改造してゲインを下げたが、もしかしたら、元々の大きなゲインで使いたい場合(例: 上記のような、外部ボリュームがない場合)があるかも知れないので、スイッチで切り替えできるようにできれば便利だと考えた。
- しかし、上述のように、ボリュームのon/offに使う予定だった古いルータの電源スイッチが壊れてしまって使えるスイッチがないため、実現は見送った。
- ゲインを調整した(少し下げた)。
- 上記の改良を行ったら音量が少し大きくなったように思えた※ので、追加抵抗(写真上のほうの黒い長方形の中の、細長い水色の物2個)を500から330Ωに変えた。 → ゲインは約2dB下がった。
- ※測定してみたら、実際にはゲイン(音量)は同じだった。気のせいとか耳の調子のせいだったのだろう。
- こういうこともあろうと、ゲイン調整用の追加抵抗を(半田付けでなく)ICソケットで取り付けて正解だった。しばらくはこのままにして、ゲインを調整できるようにする。
- ゲインを下げたら、なぜか左右の音量差が減った。: 左が0.4dB大きかったのが0.2dBになった。抵抗の誤差の関係なのかゲインが小さくなった関係なのか、本当の原因は分からない。
- 何となく、ゲインが小さくなると、何らかの原因(抵抗の誤差やオペアンプのばらつき?)で生じている左右のゲインの差も小さくなる(掛け算だから)ように想像している。
- (2/5 11:17) なお、追加抵抗は何でもいい訳ではない(いくらでもゲインを下げられる訳ではない)ようで、小さいと電源on/off時にポップ音が出てしまう。手持ちで試したところでは、270Ωまでは良かったが、220Ω以下は駄目だった。この辺りは分からないのだが、フィードバック抵抗(合成抵抗)がGNDへの抵抗(100Ω)に近いと、電流が流れ過ぎるなどして駄目なのかも知れない。
- 上記の改良を行ったら音量が少し大きくなったように思えた※ので、追加抵抗(写真上のほうの黒い長方形の中の、細長い水色の物2個)を500から330Ωに変えた。 → ゲインは約2dB下がった。
- ルータの電源スイッチを外してアンプで使おうとしたが、壊れてしまった。
- 入力切り替えスイッチでアンプのボリュームのon/off(バイパス)切り替えを行うための回路の改造(案)
- 追加スイッチでアンプのボリュームのon/off(バイパス)切り替えを行う回路図(案)
- 入力スイッチでボリュームのon/offをするための改造中: スイッチのIN1の脚を切って持ち上げた。また、 スイッチの出力からボリュームの入力への接続(パターン)を切った。
- 作業中にチップ抵抗が剥がれてしまった。。。
- アンプの改造後、ちゃんと音が出て、特性の測定中。
- コード類を整理した。
- 電源onのままボリュームon/offを切り替えた時に大きなノイズが出るのを緩和するため、初段のオペアンプの入力の手前に抵抗を追加した。また、音量が大きくなった気がするので、追加抵抗を小さくした。
- 入力切り替えスイッチを上(IN2)にすると、 ボリュームが無効(バイパス)になる。 → ボリュームが0でも音が出る。
最後に、肝心の音(音質)だが、ボリュームを排除して良くなった気はする。高音がよりクリアになり、今まで気付かなかった音が聞こえることがある。が、そういうことは今までにも何度もあったから、単に音量が変わったせいとか、気分的なものとかプラシボ効果のような気はする。
数値的には、周波数特性は変わっていない。全高調波歪率(THD)は、ボリュームありでも最大の位置ならボリュームなしと同様だが、中間の位置の場合には5倍程度の悪い値になっている。ただ、これがどのような要因で起こっているのか分からないので、意味のある値かはまだ不明だ。また、雑音の特性は測定していない。
(2/3 9:15) 雑音とボリュームが中間の場合のTHDの悪化について少し調べた。:
雑音について: ボリュームがあり/なし(グラフ: 左: 最大、右: なし)でも、また、ボリュームの位置を変えても出力の雑音の量はほとんど変わらなかった(ボリュームなし時はボリューム最大時より2dB程度減り、ボリューム中間時(グラフ: 左: 最大、右: 中間)はボリューム最大時より1-2dB程度減る)。このことから、雑音は主に(入力でなく)アンプに起因すると考えられる。そのため、ボリュームを下げるとSN比やダイナミックレンジが下がる。
ダイナミックレンジは、ボリュームなしの場合には71dB程度だった。中低域は10dBくらい良いが、4kHz辺りや10kHz以上の高域で悪化している。また、ボリュームが中間の場合には56dB程度になる。
THDの悪化について: ボリュームが中間の場合(グラフ右)、アンプの出力は13.8dB小さくなっていた。この値を比にすると1/4.9となり、THDの増加分(5倍)に相当している。一方、THDを求める時に、基本波の高調波を選択するとしても、その周波数に雑音があれば高調波とされるだろう。すると、ボリュームが中間の時には基本波に対する雑音の割合が5倍になるために、THDも5倍に増加すると説明できる。
- 歪みと雑音のボリューム有無での比較: 基本波(上)、全高調波(黒), 雑音(茶)のレベル: Vol最大(左), Volなし(右)
- 歪みと雑音のボリューム位置での比較: 基本波(上)、全高調波(黒), 雑音(茶)のレベル: Vol最大(左), Vol中間(右)
※もしかしたら、今回使用したアナログ入力インタフェース(Scarlett Solo)の雑音が大きい可能性があるのと、スピーカーの代わりに負荷に使用した抵抗が良くない可能性があるのと、オペアンプの追加抵抗なしでの(オリジナルの)特性を同じ条件で比較したいので、あとで再測定したい。 (2/3 11:05)
(2/4 6:31) 上の疑問を解くために、追加測定を行い、いくつかのことが分かった。
まず、前回使用したアナログ入力インタフェース(Scarlett Solo)は雑音が多いことが分かった。サウンドカード(ASUS Essence STX II)で入力したところ、1kHzでの雑音はScarlettより10dB以上少なかった(約1/3以下)。また、Scarlettは中低域の雑音が多く、8kHzや15kHz付近に鋭い雑音の山がある(USBの影響か?)。(グラフ: 左: Scarlett, 右: ASUS)
Scarlettの特性が悪いのは残念だが、そもそもこれは演奏収録用であり、僕はスピーカーの特性を測るために買ったので、その用途には充分なので良しとする。
入力にASUSを使った場合、出力の振幅を下げると その分雑音も減るので、雑音は(上の推測と異なり)DACの出力やアンプの初段まででも生じている可能性がある。(グラフ: 左: 直結(最大), 右: 外部ボリュームで音量を減らした)
出力の振幅を下げてもTHDが変わらないのが謎だが、アンプのTHD特性(SP192ABのマニュアルより引用、周波数表示を追加)を見ると、1kHzのTHDは異様に低いが、他の周波数では1.5W付近が最小で、それ以外の出力ではTHDが増えるので、仕方ないようだ。また、アンプなしでASUSのDACとADCを直結した場合も、レベルは異なるものの同様に変わらなかったので、電子回路のTHDはそもそもそういうものなのか、測定に使用したプログラム(REW)の仕様や不具合が考えられる。
このアンプはAB級といって、小振幅時はA級動作をすることで歪みを減らすことをうたっているが、測定結果からはそれは見受けられなかった。まあ、僕の測定環境やREWの仕様が良くない可能性があるし、そもそも、この程度の歪み(例: 1kHzで0.006%)は全く聞こえないので良しとする。
なお、上で推測した、雑音が高調波とみなされていることはなさそうだ。というのは、REWのグラフに雑音("noise floor")が表示されており、また、「雑音レベル以下の高調波は隠す」オプションがあるので、雑音と高調波は区別できているはずだ。
- 入力インタフェースでの比較 (アンプのTHDなど(絶対値, Vol off)): Scarlett(左)とASUS(右)
- 音量での比較 (アンプのTHDなど(絶対値, Vol off)): 直結(左)と外部ボリューム中央(右)
- アンプSP192ABのTHD特性 (マニュアルより)
※THDのグラフで高域が階段状に下がっているのは、測定系の上限が20kHzのため、高調波がそれ以上の周波数になる部分が測れないためである。例えば、8kHzの3倍高調波は24kHzとなって測定不可である。
再測定後のTHDと雑音などの値を以下に示す(いずれも1kHz, アンプに8Ωの負荷抵抗を付け、出力の振幅がADCの最大(2Vrms?※)になるような入力をした場合の代表値)。
- ゲイン調整時
- -12dB (追加抵抗: 330Ω)
- THD: 0.006%, 雑音: 0.001%, ダイナミックレンジ: 約103dB
- -9.5dB (追加抵抗: 500Ω)
- THD: 0.008%, 雑音: 0.001%, ダイナミックレンジ: 約103dB
- -12dB (追加抵抗: 330Ω)
- ゲイン非調整時(オリジナルの状態)
- THD: 0.009%, 雑音: 0.002%, ダイナミックレンジ: 約93dB
- [参考] アンプの仕様 (マニュアルより)
- 出力0.3W時: THD: 55Hz: 0.016%, 1kHz: 0.0009%, 20kHz: 0.02%
- 出力1W時: THD: 55Hz: 0.009%, 1kHz: 0.0015%, 20kHz: 0.0075%; SN比: 103.7dB
- 出力3W時: THD: 55Hz: 0.015%, 1kHz: 0.0026%, 20kHz: 0.012%; SN比: 108.5dB
※2Vrmsの振幅は約2.8Vなので、負荷抵抗が8Ωの場合の出力は約1Wと考えられる。
ボリュームを排除するために アンプの初段のオペアンプのフィードバック抵抗を小さくしてゲインを12dB下げることで、THDは2/3程度に、雑音は1/2程度に減った。(グラフ: 左: -12dB, 右: オリジナル) これは、あらかじめ予想したように、オペアンプのNFB量が増えて静特性が向上したためと考えられる。ただ、この程度の「微々たる」変化が聞いて分かるかどうかは疑わしい。が、判別はできないものの、(雑音は環境雑音に埋もれるだろうが、)THDは常時出て音を濁すので、無意識のうちに「音が良くなった」、「クリアになった」印象に繋がる可能性は0ではない。
それから、剥がれてしまったために別の物と交換した、右チャネルの入力部の抵抗(100Ω)の違いの影響を調べるため、振幅、位相、THD、雑音の周波数特性を左チャネルと比較したが、高域(約2kHz以上)のTHDがわずかに異なる以外には差は見つからなかった。
いずれにしても、仮にボリュームを排除した「効果」が気分的なものでも、意味はあると思う。というのは、音楽を聴くことに気分が占める割合はとても大きいので、「しょうもない部品を通して音が出ている」と意識して聴いていたら、精神状態が影響するであろう聴覚にも良くない影響があることは明らかだからだ。
要するに、これが、オーディオマニアの言う「測定値には表れない音の違い」なのだろうか? 僕はそれを「音の違い」とは思わないが、確かに(心理学的・主観的)効果があることは分かる気がした。
だがしかし、そういう類の音質を向上させる製品を売るなら、そういう効果(数値的には有意な音の変化はないが、主観的な音質が向上する)だと明記すべきだとも思う。
PS. 作業していて気付いたのだが、このアンプの放熱フィンはパワートランジスタから少し離れたところに付いている(写真中央に斜めに並んだ四角4個がトランジスタで、その斜め上の大きな黒い物がフィン)。普通は、PCのCPUのようにトランジスタをフィンに接触させる(例: トランジスタの上にフィンを載せる、フィンにトランジスタをネジ止めする)と思うのだが・・・ これで充分な放熱効果があるのか疑問だが(基板は熱を伝えやすいのだろうか?)、僕はそこら辺は素人なので何とも言えない。それに、トランジスタが熱くなるほどの大音量を出すことはないから、いずれにしても問題なかろう。
PS2. 今、保存しておいたメーカーのこのアンプの説明ページを読んだら、ノイズを減らすためにカーボン抵抗でなく金属皮膜抵抗などを使っているとか、部品の脚のインダクタンスの影響を減らすために表面実装にしたとか書いてあった。
その考えからすれば、今回僕がやったことは全部駄目もいいところだ。その思想を台無しにした。: 抵抗の種類なんて何だか分からないし、改造のためにコードを引っ張り回したから、さぞかしインダクタンスは増えただろう。
だがしかし、そういう考えなら、そもそもガリが出るような安物のボリュームを使ったら全部台無しだし、ボリューム自体はカーボン抵抗でないのかとか、インダクタンスのことまで言ったら、入力切り替えスイッチとか脚は長いけどいいのかとか、そもそもスイッチで入力を切り替えること自体が随分駄目だし(誰がこのアンプに2入力を望むだろうか? しかもミニジャックで・・・)、電源の横などを延々と引き回された信号線のパターンのインダクタンスやノイズ混入はどうなのかと思う。良くあるオーディオマニア向け製品のように、なんか整合性がない・バランスが悪い。
が、まあ、これを買った時は随分思想に共感していたことは確かだし、他に比べればまともなのも確かなので、盛大にディスることはしない。
(20:28 本文の「最後に」以降を追加; 2/4 5:22 歪みのグラフのキャプションを修正; 2/4 6:31 THDなどの再測定結果と考察を追加; 2/4 6:47, 8:13 最後の感想を追加, 8:26 アンプの仕様上のTHDを追加, 9:44 左右の特性の比較結果を追加; 2/5 11:17 追加抵抗の下限について追記)
naoki: 2021-02-02 19:51
れんとさんから、僕がやったモノ作りや改造的なことに対して「真似できない」と言われて驚くことがあるんですが、今回のことが正にその逆パターンで、僕には真似できないです。
電気と機械の違いですかね。
れんと: 2021-02-02 19:54
●ははは、そうだと思います。僕はマジで、機械には勝てません^^
れんと: 2021-02-02 19:55
●その端的な例は、あの壊れた(壊した)スイッチですwww