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本題のアンプよりも「頭の体操」とか「下手の横好き」的な話題である。

自作アンプBA3886には出力保護用のコイルがあるのだが、以前、「アンプのコイルは振動して音に影響があるから防振したほうが良い」という記述を見て、はなはだ眉唾では あるものの、気休め程度に そうしたくなった。また、ついでに、DCコンバータの放熱用フィンも防振したくなった(思い付いて ちょっとやったまでで、コイルより更に気休めとか お遊びだ)。

コイルの防振

どうやって防振しようか考え、以下の案が出た。材料は どれも余っているものだ。

  • ハリ玉やブルタックをコイルの表面に付ける・中に詰める。
  • エアコン用パテを表面に付ける・中に詰める。
  • コーキング剤を表面に付ける・中に詰める。
  • ハネナイトを表面に巻く。
  • 接着剤を表面に塗って固める。

検討し、安直にブルタックにした。ブルタックは色(薄水色)が付いているため、今後は(見えるところには)余り使わなそうなのと、柔らかくて作業しやそうだったからだ。パテやコーキング剤も余っているが、前者は柔らかいままで固まらないため、後者は固まるまでに垂れないか心配だったので止めた。

なお、コイルの中に物を詰めたりすると特性が変わってしまうのではないかと思ったが、非磁性体なら問題ないことが分かった。詰めたりする物の比透磁率が問題となるが、プラスチックやゴムやアルミニウムなどの非磁性体では概ね1で空気と同様だそうだ。

また、耐熱性が気になって調べてみたら、ブルタック自体には「40℃(直射日光35℃)以下のところでご使用ください。」という注意があるが、材料のブチルゴムは150℃くらいまで耐えられるようなので、普通にアンプを使う分には問題なさそうだ。

実際、今までも他の箇所に使って居るが、溶けて流れたりしていない。また、120℃ 30分で問題なかったというもあった。

以下のように付けた。そもそも狭くて作業が難しいうえに、中に詰めるのはコイルに密着させるのが難しいので止め、表面だけ3箇所に付けた。また、コイルの固定を強化したかったので、コイルの下にある抵抗との隙間を埋めるようにも付けた。

DCコンバータの冷却フィンの防振

コイルの材料の案に加え、以下の案が出た。

  • 防振ゴムのリブを切ったものを隙間に押し込む。
  • 耐震ジェルを押し込む。
  • (楽天Wi-Fiの)緩衝材を押し込む。

検討し、最初はハネナイトでPETボトルの断片を挟んで厚さを調整したものにしようとしたのだが、作るのが面倒なのと厚さの加減が難しいので、防振ゴムにした。これは大昔、スピーカーの下に敷いていたものだ。「防振」と書かれていた気はするが、効果は定かでない。

なお、緩衝材は良さそうだったが、色が白くて合わないので却下した。耐震ジェルは、厚さの調整が難しいのと柔らか過ぎるので、却下した。

防振ゴムのリブ(山になっている部分)の幅が丁度フィンの隙間に合うので、リブを1本切り、短く切って嵌めた。ただ、数が微妙に足らず、配置の統一感が今一つだった(右端辺りが違う)ので、その前に試しに作ったハネナイトを3枚重ねにしたものを足した。こういう配置が良いのかも分からない。完全に趣味や好みの世界である。元々効果を期待していないので、自分が気に入れば良しだw

昔の空冷バイク(特に単気筒)の冷却フィンに こういう防振ゴムが付いているものがあったが、防音や防振のためだったのだろうか? ただ、フィンの振動を抑えてもエンジン音が抑えられるとは思えない。防振だろうか。多少でもフィンの振動を抑えることでエンジンの振動を減らそうとしたのか。

効果

  • コイル: 割り箸で叩いた時の音は「カンカン」に近い感じ(響きが少し長い)だったのが、「コツコツ」になった。
    • ブルタックの防振効果はあった。
  • フィン: 割り箸で叩いた時の音は元々「コツコツ」だったが、わずかに響きが短くなった気がする。
    • 元々フィンが短く、素材が硬くて振動しにくいため、ゴム程度では特に特性が変わらないのだろうか。
  • アンプの音: 変化なし。: 作業後に わずかに音の変化(下記)を感じた気がしたが、疲れとか気のせいだろうと思う。
    • 高域が何となく大人しくなった気がする。落ち着いた感じか。かと言って、音が悪くなった訳ではない。影響があるとしたら、コイルだろう。

今のところ、溶ける臭いなどは しないが(特にフィンのゴム)、しばらくは経過観察したい。あと、ゴムの嵌り具合については、一日使ったあとは問題なかったが、朝、冷えている時は一部のゴム(切り方の加減で わずかに薄いもの)が少し緩かった。再度作っても良いが、抜ける訳でなく面倒なので、様子見にする。

 

コイルの振動(動き)について考えた。

ここからが本題だ。: コイル(の銅線)は、音を出すと(スピーカーに出す電流を流すと)どのくらい動くか?

知識が少なくて どう考えれば良いかは分からないが、以下のような前提とした。

  • 「コイルの振動」はコイルの銅線の振動
  • 銅線の振動は、コイルに流す電流だけによる。
    • → コイルの銅線の動きは、コイルに流す電流によって線(の間)に掛かる力によって生じる。

よって、

コイルの振動は、コイルに流す電流の変化によってコイルの銅線(の間)に掛かる力の変化によって、銅線が振動すること。

※当初は上の()内のように「銅線の間」の力だけを考えたが、後に銅線とコイルの磁界による力もあることに気付いた。

だと考える。

電流による線間の力の寄与の検討

銅線の間に掛かる力は、とりあえず、(コイルの形状やコイルであることの効果(あるとすれば)を無視して)平行な電流の間に掛かる力だと考えた。

調べると、予想(斥力)に反して、同じ向きに流れる平行な電流の間に掛かる力は引力だった。高校で習ったようだが、すっかり忘れて居た。

なお、コイルの場合、隣り合った線間で同じ力(線のどこでも電流は等しいため)で引き合うため、両端以外の線では力が釣り合い、基本的に動かないことが予想され、「コイル(の線)は振動しない。はい終了!」となる

ものの、釣り合っていない両端の線の振動でバランスが崩れて内側に影響を及ぼすことがないとは言えないので、一応進める。

平行な電流間の力 F= μ IAIB L / (2πd) → μ I2 L / (2πd)

μ: 透磁率, I: 電流, L: 長さ, d: 線間の距離

Lは力を求める線の長さであるが、ここではコイルの1周(巻)当たり力を考えるので、コイルの周の長さと考え、コイルの半径をrとすると、L= 2πr となる。

すると、F= μ I2  2πr / (2πd) = μ I2  r/d となる。

アンプのコイルに合わせ、r= 0.50cm (コイルの直径: 1cm), d= 1.2mm (線の芯間), μ= 1.26 * 10-6 (空心なので空気の値)とし、仮にI= 1A (推定出力: 15W(死ぬほど大きい))とすると、

F= 1.26 * 10-6 * 12 * (0.5/100)/(1.2/1000)=  5.3μN

と かなり小さそうだ。それでも、どのくらい動くか考えてみる。

線を支持点のある棒と考えて、支持点からの距離Hの点に横に力Fが加わった場合に動く量(変位)xは、以下になる。

F= k γ

k: 横弾性係数, γ: せん断歪

 γ= x / H

k (x / H)= F → x / H= F / k → x= F H / k 

書いたあとで気になったこと: 棒の「ある点に横に力Fが加わった」場合、その変位は支点と力の掛かった点の距離に関係しないのだろうか。僕が公式を使う時に誤解したのかも知れない。

元々の式は縦(引っ張り)の場合なので、位置は関係ない。そこから横にする時の決まりが あったのかも知れない。(もしかすると、長さを掛けるなど?) そうすると、下の「変位1nm未満」というのは なさそうだ。が、小さいことには変わりなさそうだ。

更に横弾性係数を調べたら、想像が当たっていた。横の場合は変位(せん断歪)は角度だそうで、横弾性係数・変位は支点と力の加わる点の距離が関係する。 (→ 参照: 下の式を引用) → 変位の計算を修正したが、何となく おかしい感じになった。

せん断力(τ) = 横弾性係数(G)× せん断歪(γ)

せん断歪(γ) = ΔL/H

ΔL: 力の加わる点での変位, H: 支点と力点の距離

あと、コイルの場合は一点でなく円周に連続して力が掛かるので、積分が要る気もする。そうすると、力や変位は更に大きくなる。が、それだと、下の例では円周全体ではバランスするので、いくら電流が強くても全く動かないという話にもなる。

この辺りは下手の横好きまたは「付け焼き」のため、なかなか考えられず、つい、簡単な考えで済まそうとしてしまう。

→ その後調べたら、「分布荷重」で計算するような感じだが、なかなか手強い。直感的・近似的には、「円の面積倍」で行けそうな気がするが、それと元の値との関係付けが分からない。仮に、半円(輪)で考えるとすれば、元の変位 * 円の面積/2= 元の変位 * 約1.6 (= π * 12/2) とするとして、元の変位(の1倍)は円のどういう状態に相当するのか(直感的には「垂直な半径1本分」)だ。そこが説明できないと、本当に約1.6倍でいいのか分からない。

そこで、トンデモ理論になるだろうが、sin関数で円(輪)の寄与を求めてみる。

元の変位をxとした場合、垂直な半径(元々の計算での支点と力点の距離)からの角度をθとした場合、そこまで(片側)の力または変位の寄与を

dx= x * sin(θ)

とすると、総合的な変位は以下のように考えられる。

x'= x + 2 * dx = x + 2 * x * sin(θ)= x * (2 + sin(θ))

半円の場合はθ= 90°なので、以下のようになる(かも知れない)。

x'= x * (2 + sin(90°))= 3x

であれば(テストでは0点だろうが)、ここで計算している それぞれの変位は10倍にもならないので、大きな違いはなさそうだ。(と希望する)

上を調べている時に見付かったページによれば、下のコイルの磁界による力の方向は内外向きでなく、コイルの磁場と平行(長手方向)でありそうなことが分かった。そうであれば、振動の方向は全部長手方向となるが、果たしてそうなのだろうか? 単に上のページに内外方向の力について書いてないだけだろうか?: いずれにしても、今の問題は、コイルが動くかと その量なので、大きな問題はない。

コイルの場合、円周に連続して力が掛かるため、上のHをどう考えるかが分からない(上に書いたように、積分が要りそうだ)。仮に、円周の中央(ある点から90°離れたところ)の点が支持点だと考えると、Hはコイルの半径となる。

コイルの線を直径1.0mm (断面積 0.79mm2)の純銅と考えると、k= 約48(GPa)なので、

x= 5.3 * 10-6 * (0.5 / 1000) / (48 * 109 * (0.79 / 10002))= 0μm (< 1nm)

と、(信じがたいが)かなり小さそうだ。

注: 上の「書いたあとで気になったこと」に書いたように、コイルでは力は円周全体に掛かっているため、本当の変位は力が一点に掛かっている場合とは異なる。ただ、一点で1nmより小さい変位を円周で計算したところでmm単位になるとは考えられないので、高々μm単位ではないだろうか。変位に関しては以下も同様である。

コイルの磁界による力の寄与の検討

上を書いてから気付いたが、(上で無視した)コイルであることの効果、すなわち、コイルの生む磁界によってコイルを形成している線が力(おそらく内・外向き)を受けることが考えられる。

上と同様に、コイルは円状で磁界による力は円周に一様に掛かるので、力が釣り合い、基本的に動かないことが予想されるが、構造の非対称性や僕の知らない要因で動く可能性があるので、とりあえず検討を進めた。

磁界の中のコイルに働く力F'は、コイルの生む磁束密度Bと電流Iなどから、以下のように求められるとする

F'= I B L'

I: 電流, L': (力を受ける部分の)長さ, B: 磁束密度

B= μ H

μ: 透磁率, H: 磁界

H= n I

n: 単位長当たりの巻数, I: 電流

F'= I μ H L'= I μ  (n  I) l'= μ I2 n L'

コイルの1周当たりの力を考えるので、上と同様に、L'をコイル1周の長さと考えるとL'= L= 2πrとなる。

アンプのコイルに合わせ、コイルの幅を1.3cm、巻数を11回とすると、n= 11/(1.3/100)= 約846となる。上と同じ電流I= 1Aの時、

F'= 1.26 * 10-6 * 12 * 846 * 2*3.14*(0.5/100)= 34μN

と、やっぱり小さそうだ。

この力でコイルの線が(内外に)動く量(変位)を上と同様に求めると、

x'= 34 * 10-6 * (0.5 / 1000) / (48 * 109 * (0.79 / 10002))= 0μm (< 1nm)

となる。

考察・まとめ

どちらの場合も値が小さ過ぎて不安になるが、正しいとすれば、僕のアンプではコイルに掛かる力は微小で その動き(振動)は無視できるということになった。

なお、これを計算する前は、コイルの線は左右(コイルの軸方向)に動くと思って居たが、そうではなく、内外(軸と直角)方向の力が1桁大きいため、動くとすれば内外に動く量のほうが大きそうだ。

すると、今回やったような防振は余り意味がなく※、やるとすれば、線を枠(ボビン)に「きっちり」巻き、「カッチリ」と接着するなどが良さそうだ(スピーカーのネットワークのコイルは そうなっている)。が、それは今からでは無理だ(コイルの作り直しになる)。

※それでも、防振材を付けることで、コイルの質量が増して振動しにくくなることは期待できそうだ。弾性係数は変わらないので直流で長時間で見ると変わらないものの、音の電流は交流のため、コイルの質量が増すことで動き出すまでの時間が長くなって振動しにくくなりそうだ。

まあ、そもそも上の考えや計算が合っているか定かでないし、合っていたとしても、僕の環境では実際のアンプの平均出力は100mWにもならないから、流れる電流は微小で、コイルの線が動く量は ものすごく小さい(≒ 動かない)と考えられる。コイルが動くとすれば、スピーカーの音や人や建物などの動きによる振動のほうが大きそうだ。

そもそも、コイルの振動と音への影響の有無すら不明だw

 

おまけ: 「コイル鳴き」の検討

考えたついでに、PCで良く聞く(僕も一度、鳴るものに当たったことがある)、スイッチング電源の「コイル鳴き」について考えると、PCは数百Wの電力を消費するため電流も数A(100Vの場合)と大きく、線が細く、巻き密度が大きいため、磁束密度も大きいだろう。すると、線を固定していない場合の変位は 上より大きくなりそうだ。

内外方向に掛かる力について考えると、Iを同じ(1A), nを100倍, L'を0.5倍(コイルの径は約0.7倍), μを2000倍(フェライトコアを想定)とすると、力は

F''= 2000*1.26 * 10-6 * 12 * 846 * 50 * 2*3.14*(0.5/100)*0.5= 3.3N

と、約10万倍(≒ 100*0.5*2000)に大きくなる。

動く量(線を固定していない場合)は、線径を0.30mm(断面積 0.071mm2)とすると、

x''= 3.3 * (0.5 * 0.7 /1000) / (48 * 109 * (0.071 / 10002))= 0.34μm

となり、アンプのコイルよりは大きいものの、かなり小さい

書いたあとで「コイル鳴き」で検索したら、どうやら、線だけの振動でなく、「コイル」と言いつつ コアも関係しているようだ(まあ、コアも含めてコイルだから良いか)。また、コイルの振動方向は上の推算と同様に内外の感じだ(説明図からの想像)。 (→ 参照)

上の参照資料によれば、コイル鳴きは、コイルの線自体の動きとコアの動きによるものがあるようで、減らすのには線を固める他に、コアが動かないようにするとか、発振周波数を変えるべきなのだろう。※

※危険なので試してはいけない。 → つまり、電源を換えるしかない。

 

PS. 書いている時、フォントのせいで"I"と"l"と"1"の違いが分かりにくくて往生したw もしかしたら、どこかで まだ混じっているかも知れない。

PS2. オーディオ機器だけでなく、正しいことが書かれている詭弁に注意しなくては いけない。コイルの話では、物理的には電流を流すと動く(音なら振動する)のは確かだが、それと その動きが測定可能か、あるいは聴いて分かるかは別だ。

例えば、スピーカーのボイスコイルの例を出されると、「ああ確かに動くね」と思ってしまうが、あれは磁性体のコアがあって磁界が強いから動くのだ(と僕は理解している)。

本当にコイルが動いたとして、それが音に影響を及ぼすかについても同様で、確かに「多少の」影響はあるだろうが、それが聴いて分かるか、音を悪くするかは別問題だ。

そこまで定量的に書いている製品・メーカーなら信用できそうだが、誤った・嘘の値、あるいは、全く問題ないのに いかも影響が大きく見えるように書いている場合もあるから(例: 「1.1dB改善!」)、油断はできない。

あと、「測定器では音の違い・良し悪しは測れない」というのは間違っていないが、そういう自分は何をどうやって測定して、その要素に関して その結論に至ったのかと聞きたい。大抵、四の五の言ってデータどころか測ったかどうかすらも出さないから聞けば分かる。今まで うっかりしていて僕は聞かなかったが、最初に実際に測ったことがあるのか聞くのは重要だろう。どういう答えが来るだろうか? 「長年の経験から測る意味がない―」とか? すべてに関してそうなのなら感心する。テスターもオシロもスペアナも使わずに開発して、出来たものは聴くだけで出荷してるのかな。

と言うと、もちろん「違う」という答えは来るが、肝心のところは出て来ないからキリがない。例えば、すごい発見の論文が出たが、その情報で他者が検証できなかったら、偽物扱いされるってことだ。と言うと、数値じゃないと言われるが、そこらのオーディオは現代の科学の最先端の論文やノーベル賞より すごいのだろうか?

と言うと、次元が違うと言われるだろう。でも、そういう科学や数値にとらわれない人でも、なぜか基本的な道具や技術は科学的なものを使って居るのが謎だ。0から完全に自分たちの理論で製品を作り上げているなら何も言うことはないが、そういう人は見たことがない。半田も真空管もトランスもトランジスタもICも電気も何も使わないってことだ。都合のいいものだけ使うのは おかしい。説明が必要だ。

まあ、僕の経験から言えるのは、「こういう(都合の良い)ものがないか」と思っていたものが突然出て来たら、それは大体偽物だということだ。

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