去年の年末に自作アンプBA3886のボリュームを修理した時に、ボリュームの素子を換えた都合で内蔵アッテネータの構成も換えた。すると、何となく音が変わった気がした。それで、作ってから半年後(今頃)にアンプの特性を測って完成時の状態と比較する予定だったので、ついでにアッテネータの特性も調べた。
すると、アッテネータは問題なかった※のだが、アンプの小出力(振幅)時の歪みが増えていた。* 増えたと言っても充分小さいので実用上は問題ないので、それで終わりにしようとしたが、やっぱり、どうして増えたのか気になった。
※だからと言って音が変わらないとは限らないが、とりあえず、特性に問題はなかった。
*例えば、出力が約11mWの時、1kHzの歪み率が完成時の1.3倍になっていた(0.0072% → 0.0093%)。
ボリュームなしでも同様なので、この歪みの増大が音の変化(かも)に関係している訳ではないが、半年でアンプに使っている素子が劣化したりしていたら良くないので、詳しく調べた。
結論としては、歪みの増大の原因は使用したサウンドカード(特にADC)の性能の限界と、雑音(の変動)による測定値の変動によるもので、アンプには問題ないと推測している。
どういうことかと言うと、アンプの出力(振幅)が小さい時は、当然ながらADCに入る信号も小さい。そのため、ADCの雑音成分の割合が増えてダイナミックレンジが狭まる。これが歪みの測定にも影響する。
全高調波歪み率THDは、入力の正弦波の電圧をV1, そのn次高調波の電圧をVn (n= 2..M)とすると、以下のようになる。(→ 参照)
THD= sqrt(ΣVn2)/V1 (n= 2..M)
※THD+Nはsqrt()の中に雑音電圧の成分N2が入る。
ここで、ADCで取り込んだデジタル信号を処理する場合、分母となる入力V1の振幅が小さいとTHDの精度が落ちる(= 求められる歪み率の下限が大きくなる)。
例えば、上の例の、アンプの出力が約11mWの時は、ADC入力の振幅は約0.30Vとなる。それをデシベル表示すると-22.4dBとなる。それが分母に来るので、簡単に言うと、求められる歪み率の下限がこの分だけ上がる。
周波数対振幅・歪みのグラフ(下図)で考えると、入力(上の線)が小さくなると下に下がるので、中段の歪みの線(ほぼ変わらない)との間隔(= 歪み率)が狭まって、測定可能な歪み率の下限が大きくなる。また、一番下のノイズフロアにも近くなるので、その点でも精度が下がる。
ADCの仕様上の歪み率は、入力(1kHz)が-3dBFSの場合に0.0002% (-113dB)だが、DACとADCを直結して測ったところ、入力が-10dBFS以下※の場合には歪み成分の量は概ね-106dBFS(上のグラフでも分かる)で一定であった(この値は仕様より大きいが、DACとADCの歪み率が乗算されるためだろうか)。これをADC固有の「歪み量」と考える。
※入力が-8dBFSでも同様と思われるが、未確認である。ただし、-6dBFSでは増えた。どこかが飽和するのだろうか。
入力が-22.4dBの場合のADC固有の歪み率は約0.0055%であり、これが測定可能な歪み率の下限となる。一方、測定された値は0.0072%や0.0093%で、下限の1.3-1.7倍と、ほとんど余裕がなくて精度が悪そうだ。個人的には少なくとも10倍は欲しい。
もし充分な精度を得ようとしたら、ADCの前にゲインが20倍程度の超低歪みなアンプを入れるのだろうが、そういうものは持っていない(買えばとても高いだろうし、新たに作るとしたら、その歪み率が確認できない)し、そもそもPCのサウンドカードで高精度に測ることに無理があるので、そこまでする意味は少ない。
そして、この余裕のなさのために測定値(歪み率)が変動するのではないかと推測している。実際、何度か測り直したら、完成時の値が得られたこともあった。
不思議なのは、測るたびに歪み率が少しずつ増えたことで、ここから何か分かるかも知れない。
変動の原因を推測すると、サウンドカードに加わる(DACから出る、あるいはADCに入る)雑音の量が時間とともに変動するのではないかと考えている。サウンドカードはPC内にあるので、雑音の状況は いろいろな要因で変動しそうだ。特に、電源からの雑音が怪しい。
そして、特性測定ソフト(REW)は測定のために音を出す前に雑音を測定して減算してTHDを求めているはず(推測)だが、もし音を出している時にホワイトノイズのような雑音が出たら・入ったら、それは歪みとして扱われるので、歪み率が大きくなってしまう。もし減算していない(THD+N)なら、雑音成分は全部歪みになる。
いずれにしても、今のところ、アンプには問題ない可能性が高いことが分かったので、ひとまず安心した。
正確な測定のためには もっといいサウンドカード・ADC(例: 24ビット= 約144dBの精度のもの)が必要だが、そもそも今はほとんど売ってないし、アンプの測定のために買うのも馬鹿らしいので、壊れるまでは保留する。
(他に、一緒にスピーカー(部屋, 設置)の特性を測った時に もう一つ謎が出て、やっぱりちょっと苦労したのだが、長くなったので別にする。)
PS. ボリュームを修理してから少し経って、今日の夜辺りから音が良くなってきた(修理・交換直後の ちょっと活きが悪いとか鮮やかさが足りない感じがなくなった)気がする。そして、再び(いつものように)細かい音が聞こえるようになった。本当に音が変わったのか、慣れなのか、耳の調子が良くなったのか、それ以外かは分からない。
そして、もし本当に音が変化していて、それがボリュームに関係があるとすれば、全くの想像だが、使っているうちにボリュームの抵抗の表面が滑らかになって抵抗値が安定したとか雑音が減ったせいかも知れない。ボリュームには機械の要素があるので、ある程度の慣らしが要るというのは ありそうではないか。 (1/6 20:41)