大嫌いな、時代の徒花的有名人風に書けば「DACのオペアンプを交換する人、みんな馬鹿です」だが、そうは言わないw
DACなどのオペアンプを換えると音が変わると言われているが、僕は否定的だ。確かに、僕もDACのオペアンプを交換したら※音が変わった気がするが、それが良い・正しいことだとは思わない。むしろ、変わるのは何かが おかしいからだとすら思って居た。
※当然ながら音を好みにするためでなく*、回路を より正しい・好ましい動作にして、DACを より良い特性(≒ 無色透明、無味無臭)にしようと思ってである。
*その背景には、「DAC(アンプも)に固有の音・主張があってはならない」という考えがある。
先日、別件(サウンドカードの歪みに左右差がある)を何とかしたくて調べていたら、音が変わる原因の一つであろうものが分かった。 ― 交換したオペアンプの仕様・特性と、そもそもの回路設計時に想定したオペアンプの仕様・特性の差によるのではないだろうか?
特に、DACでオペアンプ交換される箇所の一つのI/V変換部(DACチップの直後にあり、チップの出す電流を電圧に変換する回路)はオペアンプの特性に敏感なようで、(DACチップにもよるだろうが)下手なものを使ってはいけない。 (→ 参照1: 「I/V変換回路の考察」, 参照2: 「6. 雑音に関する考察」)
僕は ほとんどPCM1792Aしか使っていないので、以下はPCM179X系の話になるが、他でも同様だろうと思う。また、アナログ回路(いや、ハード全般か)は初心者も いいところで まだ完全には理解できていないため、おかしい点があるかも知れない。
DACのI/V変換部のオペアンプにはフィードバック抵抗と並列にコンデンサが入っている。このコンデンサはオペアンプが超高域で発振しないように(超高域での)ゲインを下げる※ものだ。

DACとI/V部の回路の例 (from Walt Kester: "DAC Interface Fundamentals" (2009))
その容量CFは以下の式で求められる。 (→ 参照, 記号は上の図に合わせた)
CF= sqrt(CI/(2π RF fu))
CI: オペアンプの-(負)入力側の容量 (上の図のCDAC+CIN)
RF: オペアンプのフィードバック抵抗
fu: オペアンプのGB積(GBWP)
※直感的には、コンデンサは周波数が高くなると抵抗値が下がるので、超高域では並列の抵抗(本来のフィードバック抵抗)とコンデンサを合成した抵抗値が小さくなって、オペアンプの負入力に電流が多く入る*ことでゲインが下がると理解している。
*シミュレータでフィードバックの電流が増加するのを確認した。
が、一方で、広帯域オペアンプはゲイン1で使うと発振するものが多いのに、危ないところでゲインを下げていいのかという疑問が未解決だ(これはアンプ制作の時から謎だ)。
そして、オペアンプ交換に際して それ以外(回路)の条件が変わらないとすれば、フィードバックコンデンサに必要な容量CFはオペアンプのGB積で決まる。逆に書けば、オペアンプのGB積に合わせてフィードバックコンデンサの容量を調整する必要がある。
フィードバック抵抗を換えて調整することも可能だが、I/V変換特性が変わるから本末転倒だ。
ここで、ユーザがオペアンプを好みのものに交換するとどうなるかというと、そのGB積は当然ながら設計時に想定したものとは異なるだろうから、コンデンサに必要な容量が変わるはずだ。が、コンデンサを換えることは不可能だ(実際には可能だが、ソケットなんてないし、交換している人を見たことがない)。
すると、悪い場合にはオペアンプが発振することになる。そうでなくても、詳しい条件は分からないが、リンギング(オーバー・アンダーシュート)が起こることがある。すると 波形が変わる※ので、「オペアンプを換えたら音が変わった」(実は変質している)となる。それが良いことでない(少なくとも原音と異なる)のは明らかだ。
※余談だが、DACやアンプの製作時にオシロで波形を見て確認しているようなページを良く見るが、本当に確認になっているのかと思う。というのは、今のDACの分解能は20ビット前後(→ 約120dB, 最小と最大の比は1:10万)にもなり、オシロで普通に表示するだけでは最小値付近の微細な変化が見えるとは思えないのだ。
上の例だと矩形波のオーバー・アンダーシュートだが、画面を見て「矩形波が綺麗に出ている」などと満足しては いけないのではないか。そもそも、正弦波だったら わずかな歪みすら分かるかどうか(プロは分かる?)・・・
もちろん、交換しても問題なく動く場合は多い(メーカー推奨(?)のオペアンプは そうだろう)。そういうのは、元のCFの容量で ちゃんと動くような特性・仕様なのだろう。が、本来のCF(からもたらされるゲイン低減特性)とは違うので、やっぱり(文字どおり多少)音が変わるだろう。
なお、関係する仕様・特性はGB積だけではない。他には、入力インピーダンスの違いでI/V変換特性が変わりそうだし、スルーレートや雑音特性は大いに効いて来る(最初のほうの参照1, 2を参照)。歪みも効きそうに思う。あと、上の式のオペアンプの負入力側の容量も変わるだろう。
だから僕の意見は、
オペアンプを換えて音が変わるのは本来のことではない。良いことでもない。
である。
もちろん、(僕の指向とは全く逆だが、)オーディオ機器を楽器のように考えて、積極的に音を作る行き方もある。それは「あり」だ。上の話は忘れて良いw
ただ、余計な話だけど、そうするにしても、他人の主観的な感想・評判に頼って交換してみて、やっぱり主観で「良くなった」、「悪くなった」を繰り返すのは、論理的でないとか効率が悪いとか無駄な気がしないでもないが、趣味なので とやかく言わない。
仮に僕がそうするとしたら、まず、測定などで好みの音の「正体」を見付け、それに合う機器を探し、改良することになるだろう。
ただ、(別件ではあるが、)DAC探しをしていると、どうしてか、測定・計測のような客観的な値に依らない・公開/公表しないオーディオ屋が多くて理解できない。製品の仕様に特性の実測値を書かないで平気な顔だ。一体、そういう人たちはマトモな技術者なのか大変疑問だ。そして、そういうのばかりだと、上の「(自分の好みの音の正体)に合う機器を探」すのが 困難になる。
そういうところから買う人は、どこの誰かも知らない人が作った「音がいい」というモノを、どうやって信じるのだろうか? そして、その「良い」と宣う音が自分に合うか、どうやって分かるのだろうか???
でも、趣味なので、どんなやり方をしても、いくら回り道しても、非効率な やり方をしても全く問題はない。それはそれでいい。僕もそういうところはある。
話は変わるが、車でも きっと同様で、タイヤやエンジンなどを換えて乗り心地や「走り」が変わったというのに似ている。僕にしてみれば、やっぱり設計時のもの(純正)の性能が最も「正しい」し、変わるのは何かが違う(正しくない)からだと考える。
とは言え、純正タイヤは高いとか、オールシーズンがないとかの仕方ない制約で別のものにせざるを得ないことはあるし、変化を楽しむこともあるだろうし、ものすごく気に入ったエンジンもあるだろうw あと、たまに、標準の状態が使いにくいから変えることもある。
結局、何でも正しい状態のままにするのが正しいとも限らないし、どうするのも各自の自由だ。けど、何が正しい(本来の)状態なのかを考え、自分が何をしているかを把握するのは重要だと思う。
PS. 今気付いたが、オーディオなどで「数値(特性・実測値)は音の良さに関係ない」みたいなことを言う人は随分虫がいい。普段は散々科学技術に頼っておきながら、肝心なところで それをないことにして、自説を述べているだけなのだ。オーディオ機器だったら、どんなに少なく見積もっても8割は物理工学に依存しているはずだが、それはいいのか? 2割の理論を変えて ちゃんと整合するのが不思議だ。「従来の科学技術の不備なところ」を実現しているとしても、その基礎は科学に則る必要はある。
この、都合良く科学に頼る輩は本当に嫌いだ。他人の主張を一見科学的・論理的な物言い(政治家のように、それ自体は正しい(が、コンテキストとしてはズレている)ので、まともに対応しようとすると疲れ果てる)で撥ね付けて、体よく対話や議論を拒否するからだ。
それであれば、病気になっても医師に頼らずに民間療法とかで治して欲しいし、「いかにも音が良さそう」なのでなく、一見しても理解不能な、異世界の技術に則った、本当に訳の分からないオーディオ機器を出して欲しいわ。
と、オーディオになると なぜか話が長いよwww